静岡と京からかみ・江戸からかみ|歴史を知り、これからの楽しみへ【金沢屋日本平店】
からかみは、和紙に木版や型紙を用いて文様を摺り込む、日本独自の装飾和紙です。
平安時代には経典や和歌の料紙として使われ、やがて襖や屏風に広がり、和室を彩る伝統として発展してきました。
雲母(きら)の光沢や金銀砂子の輝きをまとった文様は、ただの和紙以上に、特別な意味を持つ「和の意匠」として受け継がれています。
京からかみ ― 公家文化に育まれた雅
京からかみの歴史は古く、平安時代に唐から伝わった唐紙を模倣して作られた「紋からかみ」が始まりとされます。最初は経典や和歌の料紙に文様を摺り込むために用いられました。
その後、鎌倉から室町にかけては、貴族や武家の邸宅、社寺建築の装飾に広がり、襖や障子を彩るようになります。さらに桃山から江戸初期にかけては、茶の湯の流行とともに需要が高まり、京の町でからかみ職人が育ちました。
文様は唐花や青海波、菊、桐などの古典柄が多く、そこに雲母摺りのやわらかな光沢を重ねることで、静謐で雅やかな空間を演出しました。現在も京都には「雲母唐長」などからかみの伝統を守る職人が残り、世界で唯一、からかみ屋が途絶えることなく続いています。






江戸からかみ ― 多彩な技法と町人文化に根付いた粋
江戸からかみも、そのルーツは平安時代の紋からかみにさかのぼります。和歌や仏教経典の料紙に文様を摺り込む技法が、のちに襖や屏風へと発展し、江戸時代に大きな広がりを見せました。
1603年の江戸幕府開府をきっかけに、襖に貼るからかみの需要が急増。京都の職人が江戸へ移り住み、地元の需要に応じて創作を始めたのが「江戸からかみ」の出発点です。
当初は京伝来の木版摺りが中心でしたが、火災が多かった江戸では版木を守るために伊勢型紙による捺染や砂子蒔きなどの技法も取り入れられ、多彩な表現が生まれました。唐紙師・更紗師・砂子師といった専門職が分かれ、それぞれの技を磨いたのもこの時代です。
元禄期には「享保千型」と呼ばれるほど文様が豊かになり、町人文化のなかで粋で華やかな柄が人気を集めました。麻の葉や蔦、波、秋草といった大らかで力強い意匠は、京の雅とは対照的に江戸の活気を象徴しています。
その後「江戸からかみ」という名称が広く定着し、関東大震災や東京大空襲で多くの版木が焼失する危機もありましたが、職人たちの努力で復興。現在も東京松屋などの工房が伝統を守り続けています。






駿府と表具師 ― 職人はいたが、江戸からかみは普及せず
徳川家康が駿府に戻った際、城下には大工町・鋳物師町・紺屋町といった職能別の町が整然とつくられ、多くの職人集団が呼び寄せられました。現在も町名にその名残が残っています。史料をたどると、表具師(経師)が駿府に在住していた例も確認できます。つまり、襖や掛軸を仕立てる「表具の仕事」自体は駿府にも存在していました。
一方で、京や江戸で発展したような「からかみを摺り、版木を持って製作する拠点」は駿府には形成されませんでした。版木や職人の集積は大都市に集中し、駿府の表具師は京・江戸から取り寄せたからかみを使って仕立てる役割にとどまったと考えられます。結果として、駿府には表具文化はあっても、からかみそのものが地場産業として根付くことはなかったのです。
静岡で触れる機会が少なかった理由
静岡は京都と江戸の中間にあり、さらに徳川家康が駿府に拠点を構えた土地でもあります。それでもからかみ産業は根付かず、今も県内では取り扱える店が限られています。
- 版木や職人が京都・江戸に集中していたこと
- 静岡は政治拠点ではあっても大都市のような消費市場ではなかったこと
- 茶や漆器など、地域独自の産業に需要が向かったこと
- 静岡県の伝統工芸指定にもからかみが含まれず、地場産業として継承されなかったこと
こうして、静岡では「日常的に触れる機会が少ない伝統」となっていったのです。
これからの楽しみ方
静岡であまり広まらなかったからこそ、からかみは「特別な存在」として楽しむことができます。
- 襖の一間だけに取り入れる
- 床の間や玄関にアートパネルを飾る
- 店舗や応接室に屏風を置く
小さな面積でも、からかみは空間全体に品格をもたらします。

当店(金沢屋日本平店)では、京からかみ・江戸からかみの見本帳をご用意しています。
襖の張替えやアートパネル製作など、実際に紙の風合いや光の反射をご覧いただきながら、お客様のご希望に合わせた取り入れ方をご提案可能です。お気軽にご相談ください。

まとめ
京からかみは公家文化に支えられ、江戸からかみは町人文化に根付いて発展しました。
静岡にはからかみ文化が育たなかったものの、その分「知る人ぞ知る希少な伝統」として、現代の暮らしに新しい彩りを与えてくれます。
歴史を知ることでからかみの魅力がより深まり、これからの暮らしに活かす楽しみが広がっていくはずです。
なお、具体的な取り入れ方や費用感については、別記事
静岡で探す京からかみ・江戸からかみ|ふすま張替え・アートパネルで上質な和の彩り
で詳しくご紹介しています。