掛川の葛布(くずふ)とは? 小崎葛布工芸株式会社訪問レポート

2025年10月31日

~小崎葛布さんを訪ねて~

静岡に暮らしていると、身近なはずなのに意外と知られていない工芸品があります。そのひとつが「葛布(くずふ)」。掛川の名産であり、襖や座布団カバー、さらにはバッグや財布など、暮らしの中で使われてきた織物です。

私は以前から葛布に関心を持っていました。
数年前には、自分の店のホームページから外部リンクで紹介ページを作ったりしました(当時は知識が浅くてうまく広げられなかったけれど…)。
そして今回、当店10周年の企画の一つとしてお客様に県内の工芸品をプレゼントしようという話が持ち上がり、その候補に葛布が挙がりました。そこで「もっと深く知りたい!」と思い立ち、まずは静岡駅構内の駿府楽市で葛布製品を見て、さらに足を伸ばして掛川の小崎葛布さんを訪ねることにしました。

橋の上から撮った小崎葛布

お店を訪れて

迎えてくださったのは、専務の小崎浩さん。店内に入ると、あたり一面が葛布に囲まれた空間で、それだけで胸が高鳴りました。
1階の店舗には、財布やバッグ、しおりやブックカバーから、のれんや屏風まで。普段「ふすまに張るもの」としてしか見てこなかった葛布が、まるで別の顔を見せてくれる瞬間でした。

1回店舗の全景です(HPからお借りしました)
全景を取り忘れたので小崎葛布ホームページの画像をお借りしました

2階にある工房も案内していただき、機織り機のリズムに合わせて職人さんが織っていく姿を間近で見学させていただきました。動画に収めたのですが、その手の動きは静かで確かで、とても丁寧です。

職人さんが機織り機でコースターを織っています。
社長の小崎さんです。作業中。
機織りの職人さんです。こちらは男性の職人さん


布が一筋一筋織り上がっていく様子に見入ってしまいました。工房には社長の小崎さん(専務のお兄さん)が織りの途中で出てきた繊維の乱れをハサミで丁寧に取り除いていらっしゃいました。こうした一手間の積み重ねが、美しい布へとつながっているのだと実感しました。


35年経った襖と100年の屏風

工房の奥にある和室に案内されると、そこには葛布のふすまがありました。紙の襖紙ならば数年で張り替えが必要ですが、こちらの葛布の襖は35年物で、色が飴色に変化しながらも、破れることなく凛とした姿を保っています。「葛布は100年持つ」ということを以前から聞いていましたが、本当なんだな、と思いました。

35年物のふすまです。葛布だから破れない。飴色に変わっていきます
新しい紙との比較。35年ものの襖です

襖の横には、葛布を張った屏風も置かれていました。こちらはなんと100年ものだそうです。
時を重ねた布は、ただ古びるのではなく、落ち着いた色合いと存在感を増していました。
本当に100年持つんだ・・・!と感動してしまいました。

100年物のふすまから屏風を作ったそうです
簾です。上品で涼しげです

当店のお客様にも、今の家に引っ越しする際に、大工さんに頼んで、前の家にあった葛布の襖を外して新しい家に持参され、その寸法に合わせて新しい建具をつくった方がいらっしゃいました。高価で貴重な葛布は「張り替えるもの」ではなく「引き継ぐもの」としての存在でした。お話を伺いながら、その価値観がとても新鮮に感じたのを覚えています。


多彩な織りの表情

小崎社長のお話によれば、葛布は用途に応じて織り方を変えるそうです。たとえば京都から依頼された蹴鞠用には、縦糸を強くしてぎゅっと織り、強度を高めるそうです。逆に、障子のように透け感を出すためには、葛布の幅広い糸を斜めに織って光を通す工夫をすることもあるそうです。

工房には一人用だけでなく大きな機織り機もありました。二人で息を合わせて動かすその機械は、カーテンや壁紙など幅広の製品をつくるときに活躍するのだそうです。伝統工芸でありながら、今の暮らしや建築にも溶け込む柔軟さを持っていることに驚きました。

沢山ののれんの展示


ちなみに2階に続く階段の両壁も葛布。さすが、葛布のお店・・・一度にこんなに葛布を見たのが初めてで、終始テンションが上がってしまいました(笑)。

2階に上がる階段も全部葛布

製品の数々

再び1階に戻ります。店内には財布や名刺入れ、がま口、バッグ、信玄袋、ペンケース、ブックカバー、パスケース、マスク入れ、うちわ、コースターまで、本当に多彩な葛布製品が並んでいました。

5枚一組のコースターです
ペンケース
葛のひも

ひとつ手に取るごとに感じるのは「天然素材の優しい手触り」。そして素朴さと同時に、しっかりとした強さを感じます。経糸に絹や綿を使い、横糸の葛布と交わることで、しなやかで丈夫な布に仕上がるのだそうです。

襖はいわゆる生成りがほとんどなのですが、商品を見ると経糸に色糸を使ったものが多くあり、深みのある赤や落ち着いた青など、多彩な表情を見せてくれました。光沢があるので、バッグやカバンに仕立てると一層上品さが引き立つのがよく分かりました。

掛川に残る葛布の工房は2軒だけ

そんな葛布ですが、かつては掛川で盛んに織られていたものの、今では工房は市内に2軒を残すのみ。膨大な手間と根気のいる作業は、時代の流れとともに担い手が減り続けてしまったのです。

だからこそ、今も織り続けている小崎葛布さんの存在は、地域にとって大切な存在だと感じました。突然来訪した私に丁寧に葛布について説明していただいた小崎社長や小崎専務の姿勢や職人さんたちの手仕事や表情からも、この仕事を誇りにしている様子が伝わってきました。


伝統を未来へ

葛布は、単なる「布」ではありません。山の中に自生する葛の蔓から繊維を取り出し、幾度もの工程を経てようやく糸となり、職人の手で布へと姿を変える。その一つひとつの手仕事に、人と自然の営みが重なっています。

現代では「効率」が重んじられるけれど、葛布にはその逆の魅力があります。手間がかかるからこそ、一枚の布に込められる豊かさがある。だからこそ100年の時を超えて、今も美しく存在し続けられるのだと思います。

掛川の町に息づく葛布。もっと多くの人に知ってほしい、触れてほしいと願っています。


おわりに

今回の訪問は、ただ「工芸品を見学した」という体験では終わりませんでした。工房の空気、職人の手、布の質感、そして年月を経ても輝きを増す葛布。どれも心に残り、「伝統が生きている」という実感を深く与えてくれました。

葛布は高価で気軽に手に入るものではないのは確かです。だからこそ、普段の暮らしで目に触れる機会も少ないのだと思います。でも今回お店に伺って商品を見ていたら、手に届く金額のものもたくさんありました。だからまずは小物など身近なものから、そばに置いて使ってみてほしいと感じました。

これからも発信を続けつつ、金沢屋日本平店では葛布を使った襖の張替えも承っています。静岡市内のお客様にも、ぜひ葛布の良さを暮らしの中で体感していただきたいです。

~店舗・工房情報~
小崎葛布工芸株式会社
https://ozaki-kuzufu.jp/
静岡県掛川市城下3-4
毎週火曜日定休
(火曜が祝日の場合は翌日)
9:00~17:00
日曜.祝日 10:00~17:00

掛川市にある小崎葛布店さんを訪問しました



お問い合わせはこちらから

電話で相談する LINEで友だち追加